不動産を売却して確定申告が不要な条件

不動産を売却した場合、購入時より安く売るなどして利益が生じていなければ確定申告は不要です。
ただし、利益が生じていないか計算する方法が複雑であり、簡単ではありません。
そこで、今回の「誰でもわかる不動産売買」では、不動産を売却しつつ確定申告が必要かお調べになる方へ向けて、利益が生じていないか計算する方法をわかりやすくご説明しましょう。
なお、ご説明するのはマイホームなどの事業用ではない不動産を売却した場合に関する内容であり、賃貸しするなどの事業用の不動産を売却した場合には該当しないため注意してください。
目次
- 1. 譲渡所得を計算する方法
- 2. 建物の購入代金(建築費)を計算する方法
- 3. 建物部分の購入代金がわからないとき
- 3-1. 建物の標準的な建築価額から計算する
- 3-2. 消費税から計算する
- 4. 取得費がわからないとき
- まとめ - 特例の適用を希望する場合は、確定申告が必要
1. 譲渡所得を計算する方法
冒頭でご説明したとおり、不動産を売却しても利益が生じていなければ確定申告は不要です。
そして、不動産を売却することにより生じた利益を譲渡所得(じょうとしょとく)と呼びます。
譲渡所得がなければ確定申告は不要であり、税金は掛かりません。
譲渡所得は、以下のように計算します。
譲渡所得の計算式
譲渡所得(不動産を売却することにより生じた利益)=不動産の売却額-(取得費+譲渡費用)
譲渡所得は、上記の式で計算します。
式に含まれる取得費とは、売却した不動産を購入したときに掛かった費用であり、取得費に含めることができる費用は以下のとおりです。
- 建売住宅や分譲マンションの場合は建物部分の購入代金
- 注文住宅など自らが新築した住宅の場合は建築代金
- 土地付き住宅の場合は土地部分の購入代金
- 土地のみの場合は土地の購入代金
- 土地を購入しつつ造成した場合は造成費用
- 不動産業者を仲介しつつ購入した不動産は仲介手数料
- 不動産の取得時に支払った登録免許税などの登記費用
- 不動産の取得時に支払った印紙税
- 不動産を取得後に支払った不動産取得税
※ 取得費に含めることができる費用の詳細は「国税庁タックスアンサーNo.3252 取得費となるもの」にて確認できる
また、式に含まれる譲渡費用とは、不動産を売却する際に掛かった費用であり、譲渡費用に含めることができる費用は以下のとおりです。
- 不動産を売却する際に支払った仲介手数料
- 不動産を売却する際に支払った印紙税
- 建物を解体しつつ土地を売却した場合は解体費用
- 借地権を売却した場合は地主に支払った名義書き換え料
※ 譲渡費用に含めることができる費用の詳細は「国税庁タックスアンサーNo.3255 譲渡費用となるもの」にて確認できる
以上が、取得費と譲渡費用に含めることができる費用です。
ここまでは皆さん、ご理解いただけましたでしょうか。
ここまでをわかりやすく図でまとめると以下のとおりです。

さて、ここからが複雑です。
皆さん、焦らず落ち着いてお読みください。
2. 建物の購入代金(建築費)を計算する方法
不動産を売却しても譲渡所得(利益)がなければ、確定申告は不要です。
そして、譲渡所得は以下のように計算するとご紹介しました。
譲渡所得の計算式
譲渡所得(不動産を売却することにより生じた利益)=不動産の売却額-(取得費+譲渡費用)
上記の式には「取得費」が含まれますが、取得費には以下などの費用を含めることができるとご紹介しました。
取得費に含めることができる費用
- 建売住宅や分譲マンションの場合は建物部分の購入代金
- 注文住宅など自らが新築した住宅の場合は建築代金
上記の費用は、建物部分の購入代金、または建築代金そのものと考えがちですが、減価償却費相当額を差し引く必要があります。
減価償却費相当額とは、築年数により減少した価値です。
建物は、築年数と共に劣化しつつ価値が徐々に減少しますが、減価償却費相当額とは、その減少した価値を意味します。
難解ですが、無理に理解する必要はありません。気楽にお考えください。
減価償却費相当額は、以下のように計算します。
減価償却費相当額の計算式
建物の取得価額×0.9×償却率×経過年数=減価償却費相当額
(※ 減価償却費相当額の上限は「建物の取得価額」の95%まで)
上記の式に含まれる建物の取得価額とは、その建物を購入するために支払った仲介手数料や登録免許税、印紙税、不動産取得税などの費用を含む、その建物の購入代金です。
式に含まれる償却率は、その建物の構造によって異なり、以下のとおりです。
償却率
建物の構造 | 償却率 |
---|---|
木造 | 0.031 |
木骨モルタル造 | 0.034 |
鉄筋コンクリート造、または鉄骨鉄筋コンクリート造 | 0.015 |
軽量鉄骨造のうち骨格材の肉厚が3㎜以下の建物 | 0.036 |
軽量鉄骨造のうち骨格材の肉厚が3㎜超4㎜以下の建物 | 0.025 |
また、式には経過年数という項目が含まれますが、経過年数とは、その建物を取得してから売却するまでの年数であり、6か月以上の端数は1年とみなされ、6か月未満の端数は切り捨てとなります。
減価償却費相当額の計算式をわかりやすく図解でご説明すると以下のとおりです。

たとえば、3,000万円で購入しつつ20年間所有した木造住宅を売却した場合は以下のように計算し、その減価償却費相当額は1,674万円です。
計算例
3,000万円(建物の取得価額)×0.9×0.031(木造の償却率)×20年(経過年数)=1,674万円
このように、取得費に含めることができる建物部分の購入代金や建築代金は、購入代金や建築代金そのものではなく、減価償却費相当額を差し引く必要があるため注意してください。
減価償却費相当額の計算式や償却率の詳細は、「国税庁タックスアンサーNo.3261 建物の取得費の計算」にてご確認いただけます。
なお、取得費には土地の購入代金も含めることができますが、土地の購入代金からは減価償却費相当額を差し引く必要はないため留意してください。
土地は劣化しないため、減価償却費相当額を差し引く必要がありません。

3. 建物部分の購入代金がわからないとき
不動産を売却しても譲渡所得がなければ、確定申告は不要であり税金も掛かりません。
譲渡所得とは不動産を売却することにより生じた利益であり、以下のように計算します。
譲渡所得=不動産の売却額-(取得費+譲渡費用)
そして、上記の式に含まれる取得費には、以下などの費用を含めることが可能です。
- 建売住宅や分譲マンションの場合は建物部分の購入代金
- 注文住宅など自らが新築した住宅の場合は建築代金
ただし、上記の購入代金と建築代金からは減価償却費相当額を差し引く必要があり、減価償却費相当額は以下のように計算します。
建物の取得価額×0.9×償却率×経過年数=減価償却費相当額
上記の式に含まれる「建物の取得価額」とは、売却した不動産の建物部分の購入代金ですが、土地付き一戸建てや分譲マンションなどは、建物部分のみの価格がわからないことがあります。
建物部分の価格がわからない場合は、以下などの方法でご計算ください。
3-1. 建物の標準的な建築価額から計算する
建物部分の購入価格がわからない場合は、国税庁が告示する「建物の標準的な建築価額」から計算できます。
建物の標準的な建築価額とは、建築年と構造によって増減する建物の1㎡あたりの価格であり、以下のとおりです。
建物の標準的な建築価額(単位:千円)
建築年 | 木造 | 鉄筋鉄骨コンクリート | 鉄骨コンクリート | 鉄骨 |
---|---|---|---|---|
昭和50年 | 61.8 | 113.0 | 90.1 | 55.7 |
55年 | 92.5 | 149.4 | 129.7 | 84.1 |
60年 | 104.2 | 172.2 | 144.5 | 96.9 |
平成元年 | 123.1 | 237.3 | 193.3 | 128.4 |
5年 | 150.9 | 300.3 | 227.5 | 159.2 |
10年 | 158.6 | 225.6 | 203.8 | 138.7 |
15年 | 152.7 | 187.3 | 179.5 | 131.4 |
20年 | 156.0 | 229.1 | 206.1 | 158.3 |
25年 | 159.9 | 258.5 | 203.8 | 164.3 |
30年 | 168.5 | 304.2 | 263.1 | 214.1 |
建築年 | 木造 | 鉄筋鉄骨コンクリート | 鉄骨コンクリート | 鉄骨 |
---|---|---|---|---|
昭和50年 | 61.8 | 113.0 | 90.1 | 55.7 |
55年 | 92.5 | 149.4 | 129.7 | 84.1 |
60年 | 104.2 | 172.2 | 144.5 | 96.9 |
平成元年 | 123.1 | 237.3 | 193.3 | 128.4 |
5年 | 150.9 | 300.3 | 227.5 | 159.2 |
10年 | 158.6 | 225.6 | 203.8 | 138.7 |
15年 | 152.7 | 187.3 | 179.5 | 131.4 |
20年 | 156.0 | 229.1 | 206.1 | 158.3 |
25年 | 159.9 | 258.5 | 203.8 | 164.3 |
30年 | 168.5 | 304.2 | 263.1 | 214.1 |
※ その他の建築年の標準的な建築価額は、国税庁の資料「確定申告の手引き・しかた 建物の標準的な建築価額表」にて確認できる
以上が、建物の標準的な建築価額です。
たとえば、昭和50年に建築された床面積が100㎡の木造住宅は以下のように計算し、その建物部分の価格は618万円です。
計算例
61,800円(建物の標準的な建築価額による1㎡あたりの価額)×100㎡(その木造住宅の床面積)=618万円
また、平成元年に建築された床面積が50㎡の鉄筋鉄骨コンクリート造のマンションは以下のように計算し、その建物部分の価格は1,186万5,000円となります。
計算例
237,300円(建物の標準的な建築価額による1㎡あたりの価額)×50㎡(その鉄筋鉄骨コンクリート造マンションの床面積)=1,186万5,000円
3-2. 消費税から計算する
不動産は建物のみに消費税が掛かり、土地には消費税が掛かりません。
よって、購入した土地付き一戸建て、または分譲マンションの売買契約書などに消費税額が記されている場合は、その消費税額から建物部分の価格を計算できます。
具体的な計算方法は、以下のとおりです。
消費税額から建物部分の価格を計算する式
購入した土地付き一戸建て、または分譲マンションの消費税額÷消費税率=建物部分の価格
たとえば、販売価格が5,000万円の土地付き一戸建て、または分譲マンションを消費税率5%時に消費税額150万円で購入した場合は以下のように計算し、建物部分の価格は3,000万円です。
計算例
150万円(消費税額)÷0.05(消費税率)=3,000万円
また、販売価格が4,000万円の土地付き一戸建て、または分譲マンションを消費税率8%時に消費税額200万円で購入した場合は以下のように計算し、建物部分の価格は2,500万円です。
計算例
200万円(消費税額)÷0.08(消費税率)=2,500万円
上記のように消費税額とその時の消費税率が判明すれば、その不動産の建物部分の価格を算出することが可能です。

4. 取得費がわからないとき
相続した不動産など、購入額がわからない不動産を売却した際は、売却額の5%を取得費にすることが可能です。
たとえば、3,000万円で売却した不動産の取得費は、その5%の150万円とするといった具合です。
ただし、この方法を選択すると譲渡所得(不動産を売却することにより生じた利益)が発生することになる場合があるため注意してください。
譲渡所得が発生すれば確定申告が必要となり、得た利益に所得税と住民税が課せられます。
売却額の5%を取得費にできることの詳細は、「国税庁タックスアンサーNo.3258 取得費が分からないとき」にてご確認いただけます。
まとめ - 特例の適用を希望する場合は、確定申告が必要
不動産を売却して確定申告が不要な状況をご紹介しました。
不動産は、購入時より安く売却するなどして譲渡所得がない場合は確定申告は不要であり税金も掛かりません。
ただし、建物の取得費から減価償却費相当額を差し引くなど、譲渡所得を計算する方法が複雑なため注意してください。
譲渡所得を計算する方法がよくわからない場合は、最寄りの税務署に問い合わせるのが良いでしょう。

なお、マイホームを売却しつつ損益が生じた場合は、生じた損益を給与所得などと相殺できる以下の特例があります。
マイホームの売却に関する特例
- マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
- 「マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」とは、マイホームを売却しつつ損失が生じた場合に、その損失をその年の給与所得などと相殺できる特例です。
同特例の詳細は「国税庁タックスアンサーNo.3370 マイホームを買い換えた場合に譲渡損失が生じたとき」にてご確認いただけます。 - 特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
- 「特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」とは、住宅ローンの返済が残るマイホームを「住宅ローンの残額を下回る額で売却して損益が生じた場合」に、その損益をその年の給与所得などと相殺できる特例です。
同特例の詳細は「国税庁タックスアンサーNo.3390 住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき」にてご確認いただけます。
上記の特例が適用されれば、不動産を売却しつつ生じた損益と給与所得などを相殺しつつ所得税を減税できます。
ただし、上記の特例の適用を希望する場合は、確定申告が必要となるため留意してください。
ご紹介した内容が、不動産を売却しつつ確定申告が不要かお調べになる皆様に役立てば幸いです。失礼いたします。
記事公開日:2021年1月